ピッチャー・キラー 



全国編





県対抗総力戦が始まり、数日。
ようやく埼玉の選手たちにもまとまりが出てきたころ、ホテル内での時間もなごやかになっていた。

そんなある日のこと。
黒撰高校3年、村中魁は弟を探していた。
ちょっとした用件だが、行動範囲が激しく広い弟を探すのに、少々骨を折っていた。

そこで最近弟と行動をともにしている人物に聞くことにしたのだ。
これで分からなければ後でもよい、という程度の軽い気持ちだった。


相手は十二支高校の猿野天国。
珍しくロビーで一人、ぼんやりとした表情で過ごしていた。
その様子に少々怪訝に思いながらも、用を果たすことにした。


「猿野殿、すまぬが由太郎はどこか知らぬか?」

「……。」

「猿野殿?」

「あ…っと、…あ、魁さん。どうしたんすか?」

驚いた表情のあと、天国はいつもの空気に戻っていた。
不思議に思いながら、魁はとりあえず自分の用件を口に出した。


「…村中?さっきうちの兎丸とゲームするって部屋に行ってましたけど…。」

「そうか、かたじけない。」

「いえいえ。」

魁の質問はすぐに終わった。
本来ならここですぐに弟のところへ行くはずだった。


だが、魁はどうしても気になった。
ほかでもない天国のことだ。


「…猿野殿。不躾だが…このような処に一人で、どうされた?」
「え?」

ここは人気の少ない場所だ。
喫煙所にもされている場ではあるが、別に天国がタバコを吸っているとは思っていない。
ただ、いつも人の中心にいる天国が過ごすにはそぐわない、と感じたのだ。

それに、大会が始まってからずっと気になっていた。



明らかに、何かを抱えている表情をしていたからだ。
開けっぴろげな印象の天国が持つには、あまりにも重い。


「あー…オレも考え事の一つは、しますよ。似合いませんか?」
「…いや、そういうわけでは…。」

「気ぃ使わせてすんません。
 何も、ないですから。」

にこりと笑う。
それは聞くな、という拒絶を表しているようにしか感じられなかった。



#######

「……。」
そのまま逃げるように場所を去って行った天国を見送ったまま。
魁はその場に立ち尽くしていた。

やはり自分では、言ってはくれないかと、少なからずショックも受けてはいた。

その思いのまま、長いため息をつくと。
後ろから声がかかった。


「何をしている。村中。」

振り向くと、そこにいたのは威圧するような眼差しの、自チームのキャプテンであった。

「屑桐殿。戻られたか。」
「ああ。たった今な。」

彼は母の手術のために一時帰宅をしていたのだが、今この場に戻ってきた。
そんなときに居合わせられるとは、と魁は少し苦笑する。

「…さっきのは、猿ガキか?」

屑桐のいいように口の悪い、とまた少し苦笑して魁は答えた。

「見ておられたか。…最近少々元気がないように思えてな。
 問うていたところだ。」


「…それだけだな。」
「……ああ。それだけだが。」

その追加された問いに、屑桐の感情が少し読み取れた。
少なからず意外に思い、魁は驚いた顔をする。


だが、納得もできた。
自分たちが彼に持つ心配だけではない感情を。


「で。」
「…いや、拙者には何も。一応十二支のものに聞いてみようかとも思うが。」

「……そうか。」

屑桐は少し複雑な顔をしていた。
それでこの話を自分は終えるのが普通なのに、終わらせることができない。

そんな気持ちを魁はなんとなく感じた。

そしてまた少し笑い、声をかけた。


「そなたも来たほうがよいだろう。
 埼玉のキャプテンを任されているのだから。」


「チッ…仕方がない。
 そこで待っていろ。荷物を置いてくる。」


「分かった。」


相手に理由をつけられたことが少なからずプライドにひびいているようだが。


どうやら、道連れができたようだ。


(敵に塩を送ったようだがな。)


また魁は苦笑した。



そして、猿野の悩みを少しでも知りたいと、改めて思った。


それが優しさではなく、むしろエゴを含んだ欲であることをどこかで自覚しながら。



                                            To be Continued…



覚えてらっしゃるでしょうか?どれだけお待たせしたか・・・。本当に申し訳ありませんでした。
しかも終わってないし;;長くなりそうなので三部作にさせていただきました。

さらに前回の「ピッチャーキラー」とはうってかわってシリアス調。
場合によってはコメディに終わるかもしれませんが・・・違和感が出たらすみません;;

飛燕様、本当に本当にお待たせして申し訳ありませんでした。
リクエストありがとうございます!!


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